はじめに

個人的にいうと、ことしのTシャツをつくることにそれほど乗り気ではなかった。

コロナウイルス感染症の不安感やロシアのウクライナ侵攻などあって気持ちが沈んでいたからだ。

 

けれども日々あらたにうまれる作品を眺めていると、夏にTシャツになったときのビジュアルがはっきりと脳に浮かんでくる。このTシャツをチームでつくるときには、きっと高揚してるにちがいないと思えたし、袖をとおせば、いつもの日常をすこしだけアガる1日にするに違いなかった。そうやって納得しながら、今年もまたTシャツづくりに沸きたつ日々へとむかうことになった。

 

創作シルクのTシャツは、メンバーとスタッフが版下制作からシルクスクリーンをつかっての手刷りまで手作業していて一点一点表情が異なる特別な一枚だ。デザインを固定せず、インクの濃さ、かすれ、にじみ、抜けなど一枚一枚すべてが特別。

 

インクのシミやよごれは、そのうえに刷ったり、手刺繍をほどこしたり、表現をアウトプットする場を提供してくれる。

 

版画はおなじものがたくさん刷れ、ひとつずつ全くちがうものが刷れる。刷るあいだじゅう、わたしたちは精神的に自由でいることを大事にしている。囚われないこと。考えないこと。決まりをつくらず刷り損じのものにも意味や価値を見出す。これがわたしたちのものづくりのモットーともなっている。

平井和樹Tシャツ「入れ歯の日まではあと4日」

創作Tのシルクの作品、平井和樹くんの「入れ歯の日まではあと4日」。

HANAギャラリーで開催された平井くんの個展に選ばれて展示されていたなかの一枚。

そこにある平井くんのイラストの入れ歯は、画用紙のまんなかで、健康そうなピンク色をしていて、あと4日で入れ歯の日ではあるのだけれど、永らくそこで誇らしげに、にまりと笑っているようで、わたしたちを無条件に受け入れて、陽気に幸福で満たしてくれるようだった。

「わろたらいいじゃんいいじゃん」と言ってくれるような気がした。この作品は平井くんのおおきな包容力の表現だなと感じた。

 

みたことないかっこいい服になると、刷り重ねて4版。脳内でシティポップなビジュアルだったTシャツがやっぱりそうなった!昼に夜にいろんなひとがユニークな気持ちで着てくれるといいなと思っている。

平井和樹Tシャツ「シナモンロール」

そして平井和樹くんの「シナモンロール」Tシャツ

このイラストをみるひとは、脳内にスパイシーなシナモンと小麦のかおりが漂う。こんがりと焼けている生地には、粉砂糖と卵の白身とレモンの果汁のアイシングでお化粧のラインが効いてる。

どーんとまるく大きい。ごっつ多幸感だ。

テキスタイルのメンバーとスタッフでこのシルクスクリーンを刷った。こんがりした感じを、シルクスクリーンでどうだすかのはなしをしながら一枚一枚刷った。まるでオーブンで焼きあげるように。だから一枚ずつが、よき焼き加減だなと思ってもらえるTシャツになっている。

 

シナモンロール発祥の地スウェーデンでは『おいしい』ことを『Gott (ゴッツ)』というらしいし、毎年10月4日、スウェーデンではシナモンロールの日を祝ってるらしい。

 

このシナモンロールと入れ歯のイラストは10月4日が共通だったんだということは今調べていて知った。(今日は6月23日です。)たくさんあった個展の作品のなかから、たまたまこの10月4日の2枚をえらんだのだった。なんかきっとこの日は、特別な日だな。

富丸風香Tシャツ

富丸風香さんのシルクスクリーンTシャツ。

木の切り株。犬のマルチーズと第二弾では、アルマジロ(近日販売開始)。それぞれことしの夏のTシャツのための書き下ろし。

今年も、あたらしい富丸さんの表現です。

その他の作家Tシャツ

これらシルクスクリーンのほか、パッチや手刺繍、ミシン刺繍、ドローイングなどの一点一点表現の異なる特別な一枚を制作しました。

宿利さん、濱野さん、脇坂さん、松田さん、福岡さん、舟木さん、松村さんの手作り一点もののシャツやTシャツ。ひとつひとつの制作は、メンバーやスタッフなどそれぞれのひとの癒しや恢復の時間です。そのことを大切にすることがわたしたちのものづくりだと思っています。

 

そしてわたしたちの未来は、そのような時間の積み重ねのさきにあるものでありたいと思っています。

おわりに

この服たちのその先に、着るひとびとのものがたりが重なっていきます。連なったその時間の積み重なりがきっとなにかの価値になっていく。

 

創作の時間では、これからTシャツというものとは別の媒体に、メンバーの表現の可能性を見出そうとしています。かわらずメンバーとスタッフと、そしていろんなひとびととともに作っていきます。

わたしたちの大事なことは、つながるすべてのひとびととの幸福なものづくりをつづけていくことだと、いまふたたび伝えたいと思いました。

 

ことしTシャツづくりの初動では、そこに注ぐ力がでてこなかった。暗いニュースのまいにちの日々のなか、自分自身がそのなかに埋もれてしまった。

けれども。「今年もたのしみにしていますよ」といった言葉をいただいたり、日々気温があがるにつれて創作Tシャツを着てくれるひとと出会いました。

今年もやりましょうとそっとそう伝えてくれる仲間の存在となにより日々、かわらず表現してくれているメンバーがいます。

このことにもう一度、気がついて今年もみなさまのもとへ届けることができましたことを本当にうれしく思います。

 

アートセンターHANA
創作プログラムスタッフ
是永ゆうこ


T-SHIRT COLLECTION2022はまだまだ続きます。

次の第3会場では、アートセンターHANAで過去に制作されたTシャツたちを、お値打ち価格にしてご紹介いたします。

数もたくさんありますので、見応えがありますよ。